月の光で かがやく涙
仮面を脱いで いま夢の世界へ
ガラスの靴で カボチャの馬車に
乗り込めばほら ヒロインになれる
初めて舞踏会に参加したシンデレラ。神様は念願のカボチャの馬車を用意してくださった。真っ白なドレスを着て馬車から見る町の風景は、以前との感じとは格別に違うものだった。
お城も豪華だ。お城というよりはお屋敷と言ったほうが正しいかも。白くて高い壁。コリント式(Corinthian Order)と呼ばれる長くて細く、先端が曲がっているとても繊細な古代ギリシアから伝わってきた柱が並んでおり、建物全体をクラシックな様式に感じ取らせる。屋根はとても高く大きくてまるで人が立って通れそうだ。マンサード屋根と呼ばれて当時フランスで一番流行っていた屋根だ。
「こんなところに来れるなんて夢みたい。」シンデレラは嘆いた。
外にはベランダがあり、すでに貴婦人や公子様たちが一人一人ワインカップに手をつけて、おしゃべりをしている。王子様はまだのようだ。
「お嬢様、お着きになりました。」玄関口の車寄の前に馬車は止まり、使者は言う。「十二時前にはここを出ること。魔法が消えたら台無しになる。」
「わかりました」シンデレラはうなずいた。
そっとゆっくりと馬車を降りる。歩いたとたん、シンデレラはとても大変なことに気がついた。足が痛い。普段、家事をしているため、ハイヒールなんて履いたことなんてないし、それにガラス製だ、痛いのは当然。
もちろん、国一番のお屋敷だ。靴に敷ける柔らかい布などなんて、あるわけがない。「どうしよう」。シンデレラは困った顔をしてしゃがんだ。すると、セッティングされているはずの髪型が崩れて、横の髪が一束だけ落ちてしまった。
「あ!そこに白い酒がある。それだけでも飲もう。」
「王子様のご到着!!」
「どうしよう」
「そなた、特別な衣装を着ているが、どこのものじゃ?」
「おい!王子様が話を聞いているのだぞ!」
「私?」シンデレラは信じられない顔をした。
「他にいるか!」
「私は台東出身ですが、今は台北の官舎で泊まり込みの女中をしています。」
「そなたの黒い衣装、とても美しい。」
「黒?私は白いドレスを着ているはずなのに。」
「いや、黒くて、そなたにぴったりだ。刺繍が気に入った。」
よく見ると、シンデレラの服は、いつの間にか、故郷の衣装になっていた。豊年祭しか着ない、とても大事にしている服だ。
「踊ろう」王子様は手を取った。
音楽が流れた。もちろん、豊年祭の歌曲ではなく、クラシックのワルツだ。不思議なことに、シンデレラは何一歩も外さずに、ただついて行くだけでよかった。
観客は静かに見ていた。一曲が終わると、熱い拍手を送り、また一曲、また一曲と続けていった。
「ママ、ハロウインの仮装パレード、何にするの?」シンは聞いた。
「そうだね、お姫様はどう?」
「そんなのどうでもいい。」
「そんな、子供の夢でしょ。」
「ハロウインなんて、バカバカしい。知っているか、あんなもの、昔の西洋では、悪魔に子供をさらわれないように、とても恐怖に仮装して、悪魔の手から逃れるんだ」
「またそんなことを。シンの前でしょ。今日の手術、うまく行かなかったの?」
仮装大賞の日、シンはとても綺麗なドレスを着て、パレードに参加した。手芸はうまくなかったが、頑張ってシンのために作ったドレスだ。義母に聞いて細かいところまで注意を払ったので、こう見ると、我としてもとてもできがいいものだ。
「リンリンリンーーー時間ですよーーーーー」
突然、格好がとてもおかしな時計が混ざってきた。尻に大きな時計の面をつけ、デッカな尻を前に突っ込み、とても大きな声であっちこっちさわいだ。
「なにこれ!嫌な奴!」そう思ったが遅い、奇怪な時計はシンに向かって突入していく。
「バン!!!!!!!!!」
大きな煙がたち、混乱した。
シン、ことシンデレラがなぜこの世界に来たのかはわからない。官舎の泊まり込み女中となり、何一つ苦労しなかったシンはさんざん苦労をして、現世と前世をようやく明らかにした。時計が歪み、時の穴に落ちたのだろう。
「カンー、カンー、カンー、カンー、カンー、カンー、カンー、カンー、カンー、カンー、カンー、カンー」
「いけない、もう、帰らなくちゃ」
「もう?」
「そなたの名前は?」
「シン、シンデレラ」
「これを」シンはあの履きなれないガラスの靴を王子様に渡した。