「私たちはどこでもドアを作った、でも扉を開けた先にはまだ誰もいない」
近年メタバースが話題になり、その勢いはまさにゴールドラッシュならぬ、メタラッシュといえるだろう。メタバースは今や世界最大のソーシャルメディアのマーケティング戦略になっており、各国のメディアが総じて取上げ、これ以上無いほどホットな話題となった。日本でも同じ状況になるのではと考えている。
各国のメディアは、視聴者に「うける」メタバースの片鱗、表面上のものしか取りあげていないと感じている。
筆者は、不確実な未来を描くのではなく、メタバース産業に対して、我々は今何ができるのか、何から始められるかについて個人的な観点を述べていきたいと思う。
Metaverse is just an empty space, aka wasteland, without lots and lots of creative virtual human!
【メタバースの中に創造性が豊かなバーチャルヒューマンがいないと、ただの空っぽの空間、荒れ地である!】
このフレーズは海外の業界の友人達とメタバースについて論じていた時に、筆者が発言したものである。よく考えてみれば、それは極めてあたりまえのことなのだ。古今東西、現実と仮想を問わず、世界は人で構成されているのだ。
メタバースはまだ空っぽの殻であり、世界の大手企業でもどうやってこのプラットフォームからビジネスを勝ち取るかを考えているだろう。しかし、メタバースはより多くのクリエイティブ性を有し、生命力を持つバーチャルヒューマンの存在を必要していることはまだ誰も気付いていない。クラウドサービスから生産されるAIロボットではその代わりにはならないのだ。だからこそ斬新なアイデアを持つ小さなチームにとっては、今はまさに絶好のチャンスだといえるだろう。
では、改めて現在業界の状況を整理しよう。
3Dバーチャルキャラクターの制作に使用されるソフト、ハードウェアは激しい競争に陥っている。各国でこの市場に参入する業者は数知れず、例えばUnreal EngineのMetaHuman、Pixiv(Japan)のVRoid Studio。それに加えて、昔から業界に存在している強いプレイヤー、例えばMayaや3ds Maxでキャラクター制作することも当然可能である。
また、コンテンツやキャラクターの制作会社の競争はさらに激化するだろう。多くの大手制作会社は、すでに実績を積み上げている。有名でなくとも、アニメやVFXの下請をしている実力がある会社やスタジオも数えきれないほど存在している。
これらの市場に新規参入は極めて困難といえるだろう。
しかし、少し意外なことに、デビューしたバーチャルヒューマンを大スターにまで養成する力を持つチームはまだ五本の指にも満たない。特筆すべきなのは日本にはVTuberやバーチャルヒューマンをタレントとするエージェント会社があり、VTuberすなわちバーチャルヒューマンは、それらの会社の蓄積されたノウハウにより、YouTubeのライブパフォーマンスから利益(Superchatのチップなど)を獲得している。
世界規模で見ても、日本での年収50万米ドル(YouTubeスーパーチャットのみ)を稼ぐ数十人のVTuberを育てられるほどの事務所は他国ではあまり見られない。他の国ではバーチャルヒューマンが利益を上げるのはまだ困難である。
しかし国境を持たないというのもまたバーチャルヒューマン、ひいてはメタバースの大きな特徴といえるだろう。日本の有名VTuberのフォロワーからもその特徴が見られる。70%以上のフォロワーは日本国外の人たちなのだ。この国境がない業界に挑むのであれば、現在自分がいる文化圏に囚われず、より多くのものを取り込むことが、世界で頭角を現す方法の一つだろう。
筆者は、クリエイティブを主導するチームに異なる文化背景を持つ人やその二世のアイデアを取り込むことを強く推薦する。
また、技術者、プログラミングができる人材であればさらによいだろう。これからは次々と新しい概念が生み出され、それを実現するソフトエンジニアの需要がより増えるのだ。この二つの能力を同時に持つ人材はより強力で、ニッチな競争力を持つのだ。
現在バーチャルヒューマンの産業クラスターはまだ完全に形成されていない。各国が協力して「メタフレンドリー」な環境を提供できれば、小さなチームでもこれから起きる競争に挑み、優位に立つ可能性を高めることができるのではないかと考えている。
では、筆者が考える「メタフレンドリー」の環境についての以下3点を述べていきたい。
バーチャルヒューマンの人格を定義
バーチャルヒューマンにはまだ人間や会社法人のように法的権利や義務がない。適切な法的措置により、バーチャルヒューマンの地位をある程度築く事ができれば、産業の発展は確実に速くなるだろう。例えば、バーチャルヒューマンも携帯電話のように出荷した時点で照合できるIMEI番号を付与すること義務付ける、Deepfakeのような技術を使用するなど、クリエイティブ性を失わずに、犯罪の特定も行うことができる。
バーチャルヒューマン用の銀行
バーチャルヒューマンの法律的な地位が解決された後、銀行は大きな障害になるだろう。短期的には、現在の銀行システムを使いバーチャル世界の取引を行うことができる。簡単にいえば、現在の電子決済(QRコードなど)をバーチャル世界でも使用することである。技術的には難しいものではない。銀行も電子決済を通じてバーチャル世界に進出する事を可能にするだろう。⾧期的には信頼度の高い仮想通貨が生き残れば、メタバースをさらに加速させることができるだろう。
メタバースの経済特別区
メタバースの経済特別区がどこの国から始めるのかはまだわからない。しかし、メタバース経済特別区はすべてのバーチャルヒューマンに向けてオープンするだろう。すべてのバーチャルヒューマンが合法な人格を持つ自由人として、この特別区に登録する事を受け入れる。バーチャルヒューマンはここで創意のあるサービスを提供し、現実世界の通貨を受け取り、収益を得る。もちろん将来的にメタバースの仮想通貨と現実世界の通貨の両替所を設立するのも可能である。経済特別区の設立は、バーチャルヒューマンの人口を急増させ、バーチャルヒューマンの経済規模を急成長させるだろう。 結論をまとめると、メタバースの優位性を獲得するには、社会が一丸となり、素早く行動することだ。例えば、韓国政府はK-バースを唱え、K-popの影響力を使い、メタバースでもその地位を確立しようと動きがある。
総じて、我々が今できることとしては、現在自分の国が有している優位性をフルに活用し、この産業において、どういう指針、方向で動いていくのかを模索し、目前に来ている「次世代」の新しい産業競争の中で自分の居場所を確保するべきではないか。
クリストファー・チェン
アジアバーチャルヒューマン協会 創設理事
台湾VTuber 協会会⾧