先月開講した香水づくりレッスンの際に、何人かの受講生がレッスン中に、自分がブレンドした香水に、そもそも加えていない香りの匂いがすることに気づいていました。一人のある生徒がブレンド中に天竺葵(ゼラニウム)を加えていないのに、最終的にブレンドし終えた彼女の香水には確かに天竺葵の香りがしました。
「鼻がおかしくなっちゃったのかな!?」彼女は焦ったように聞いてきました。ですが実際には、彼女の鼻がおかしくなったのでも、何かの魔法でもなく、この現象の正体は嗅覚神経の反応による人間の面白い反応現象です。
ほんの小さい場所がもたらす大きな役割
私たち人間の嗅覚を司る嗅神経は、鼻腔の奥の上部にあり、その大きさは約1平方センチメートル、親指の爪よりも小さいのです。嗅神経は鼻の粘膜にある嗅覚受容体からの刺激を中枢神経の扁桃体、海馬、大脳皮質に伝えます。これらは小さな部位ではありますが、私たちの日常生活に非常に大きな影響を与えているのです。
嗅神経の感覚メカニズム
空気中に浮遊している分子が鼻腔に吸い込まれると、嗅神経細胞の粘膜にある匂いと結合するタンパク質によって捉えられ、嗅覚受容体に届ける小さなタンパク質を作ります。このタンパク質の構造が変化を生み出していきます(私たちが手で野球のボールを握った時、手のひらが開いた状態からしっかり握り締められた状態に変化するように)、この構造変化が嗅神経細胞に影響を与え、細胞膜上の活動電位を変化させ、脳に送られる電気信号を発生させます。
匂いの判断メカニズム
現在の医学研究によると嗅覚受容体は約1000種類あると言われていまが、私たちは実際それよりも多く1000種類以上の匂いの種類を嗅ぎ分けることができるのです。なぜ嗅覚受容体自体は1000種類のみにもかかわらずそれ以上をかぎ分けられることができるかというと、匂い分子がそれぞれ異なる形をしており、異なるタンパク質受容体と結合することができるため、それらを活性化させて異なる電気信号を発生させることができるからです。したがって、異なる匂いによって活性化されるさまざまなタイプのタンパク質受容体を組み合わせることで、多種多様なタイプの匂いモデルをつくり出すことができるのです。また私たちは普段匂いを嗅ぎ分ける時大脳の異なる匂いモデルによって判断されています。
匂いモデルの応用
例えば、天竺葵(ゼラニウム)の香りは、ゲラニオール、シトロネラール、リナロール、リモネン、メンソールなどの5大アルコールによって形成されています。上記に述べたこれらの5つのアルコールは、天竺葵(ゼラニウム)に特定の濃度で含まれているため、私たちが記憶している天竺葵(ゼラニウム)の香りはこの5つのアルコールによって成される匂いモデルによるものです。
したがって、私たちが香水を調香する時,ローズ・オットー(ゲラニオールを含む)、ユーカリ(シトロネラールを含む)、ジャスミン(リナロールを含む)、ミント(リモネンとメンソールを含む)の精油を使い、たまたまこれら4つの精油の5つのアルコールの配合の割合が天竺葵(ゼラニウム)の匂いモデルに似ているとすれば、天竺葵(ゼラニウム)本体を加えなくても、天竺葵(ゼラニウム)に近い匂いの香水を作ることができるでしょう。
核心的キーポイントは匂いの種類とその濃度
匂いの種類と濃度を熟知した調香師は、香りのパターンを分析して明確にすることで、印象に残る香りを試行し、つくり出すことができます。「ブラックカラントを入れていないのに、香水の中にほのかに香りがする」という受講生がいましたが、これらの匂いモデルの原理は先の段落で述べた現象と同じです。
また人間の鼻は興味深く、配合の比率とは別に、分子構造の違いでさえも嗅覚に影響します。似たような構造の分子は異なる匂いを放しますが、異なる構造の分子はよく似た匂いを放つことがあります。
もちろん中には、「いくら匂いを足しても香りに変化がなく、単一の香りが強いままです。」という受講生もいます、その理由は濃度にあるのです。調香師は異なる香水原料を使って、ある特定の香水をブレンドしたい場合、まず元のオイルまたは精油の濃度を調整し、それから匂いの配合を整えていきます。これは高濃度のエッセンシャルオイルは匂いが非常に強いため、人間の鼻で香りを嗅ぎ分け、違いを識別することはとても難しいためです。調整された適切な濃度のエッセンシャルオイルであれば、調香師は異なる香りの微妙な違いを判断することができるのです。
調香の最も面白いところは、異なる種類の香りを異なる強さで配合しブレンドすることで、他とは違う神秘的な香りをつくり出すことができるところです。また、自分の好みに応じて好きな香り調合することも可能です。ぜひ調香師と共に自分だけの特別な香水を見つけてみませんか?
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