第一段
「『あなたもくさい』って、言われたことがありますか」と、意外な問いかけで話が始まった。「その一言が私を変えました」と続ける講演者の言葉で、会場がひとつになって耳を傾けた。ベストセラー『世界ふれ合いの旅』の著者に依頼した講演会でのことである。 若者の何気ない一言が、思わず本が売れて、知らぬ間にいい気になっていた自分を変えた。そう言って、講演者はインドでの出会いについて話し始めた。
問(と)いかけ
[名]
詢問,提問,開始問。(問いかけること。質問。)
問いかけに応じる。回答問題。
問いかける
[他動詞・2類]ます形 問いかけます て形 問いかけて
問,打聴。(尋ねる。)
耳(みみ)を傾(かたむ)ける [慣用表現]
傾聽,細聴。(熱心にじっと聞く。傾聴する。)
友達の話に耳を傾ける。
傾聽朋友的講話。
傾(かたむ)ける
[他動詞]
ます形 傾けます て形 傾けて
①使…傾斜,使…歪(偏)。(斜めにする。かたむくようにする。)
体を前に傾ける。身體前傾。
杯(はい)を傾ける。喝酒。
②傾注。(考えや心をある方面に向ける。心を注ぐ。)
力を傾ける。竭力;儘力。
注意を傾ける。傾注全神;全神貫注。
愛情を傾ける。傾注愛情。
耳を傾ける。傾聽。
心を傾けて勉強すれば,もっと成績がよくなるでしょう
如果專心一意地學習,成績必將更好。
何気(なにげ)ない
[形]
①無意。沒有任何想法,沒有特別深的意図。(何の考えもない。特に深い意図もない。)
何気なく雑誌を開く。不經意地打開了雜誌。
何気なく彼らの話をたち聞く。不經意地聽到了他們的話。
②沒事兒,沒關係。並未特別介意,若無其事。(別に気に求めていない。さりげない。)
そのことに何気(なにげ)ないさまを装(よそお)う。
佯裝和那件事沒關係。
彼の何気ない一言が彼女のプライドを傷(きず)つけた。
他不經意的一句話傷害了她的自尊。
思(おも)わず
[副]
禁不住,不由得,不由自主地,情不自禁地,不知不覚地。(そうするつもりではなかったのに、無意識に行うさま。知らずに。考えずに)
思わず涙が出た。禁不住落下淚來。
思わず本音をはく。情不自禁地說出真心話;不知不覺地說出實話。
あまりおかしいので思わず吹(ふ)き出(だ)した。
因為太滑稽了不由得大笑起來。
第二段
日本に留学した経験がある若者と気が合い、食事をすることになった。「アジアをはじめ、世界中を歩き回ってふれ合いや体験を重ねてきた」と話すと、「ぜひいろいろな所の話をしてくれ」と頼まれた。「さすがに世界を旅した人だ」と感心した表情で聞く若者に、「つい調子に乗って」においの話を始めた。「どこにも独特のにおいがあって、目を閉じていてもどこにいるかわかる」と自慢気に言うと、若者が「そういえば、日本もそうですね」と話を合わせた。その一言で、講演者は黙り込んでしまったという。
N2文型:〜をはじめ 以…為首
[意味]〜を第一に
代表的なものを1つ「〜をはじめ」でピックアップし、それから、他の同じグループのものを言うときに使う。
[接続] N + をはじめ
・田中さんはピアノをはじめ、ギター、ドラム、バイオリンなど多くの楽器(がっき)を演奏(えんそう)できる。
・今年はマレーシアをはじめ、東南アジアの各国を旅行したいと思っている。
・日本のスポーツとしては、相撲(すもう)をはじめ、柔道(じゅうどう)、剣道(けんどう)、弓道(きゅうどう)などが挙(あ)げられる。
重(かさ)ねる 他動詞
①反複,屢次,多次(ある物事に、さらにそれと同類の物事を加える。また、同じことを何度も繰り返す)。
失敗を重ねる。屢遭失敗;失敗又失敗。
日を重ねる。過了一天又一天。
悪事を重ねる。屢遭壞事。
苦労に苦労を重ねる。経歴千辛萬苦。
②重疊地堆放;加上,放上(物の上に、さらにそれと同類の物を載せる)。
本を重ねる。把書疊起來。
手を重ねる。把一隻手放在另一隻手上。
セーターを2枚重ねて着る。毛衣上又套一件毛衣。
寒くてたまらないので、下着を何枚も重ねて着る
冷得受不了,穿了好幾件內衣。
第三段
講演者(こうえんしゃ)は、清潔(せいけつ)な日本で、においなどするわけがないと思い込んでいただけに、若者の一言がショックだった。しかし、考えてみれば、日本人には気がつかない「日本のにおい」があってもおかしくないと、若者の言うことが納得(なっとく)できた。何も言えなかったのは、[自分の生活している場所がほかの人にはどう見えるのか考えてもみなかったこと]を恥ずかしく思ったからだそうだ。「自分を知らないで、ふれ合いなんかあるのですか。自分のにおいを知るから始めなければ、相手がわかったり、ものが見えたりしないのでは」と、若者の一言が、そう聞こえたという。
わけがない [副詞][形容詞]
沒有理由,不合道理。(筋道が立たない。理由や道理がない。)
訳(わけ)がなく涙(なみだ)が溢(あふ)れ出(で)てくる。
眼淚毫無理由地流了出來。
思い込(こ)む [自動詞]
深信,確信;以為。(すっかり信じてしまう。深く心に思う。そう思っている。是非にかかわらず。)
君は来ると思いこんでいた。我深信你一定會來的。
あいつは西洋(せいよう)のものはなんでもよいと思いこんでいる。
他認定西洋的東西什麼都是好的。
彼はうそをほんとうだと思いこんでいる。
他把謊言信以為真。