香水原料の王様-胡椒
中華料理ではよくルーバオ(滷包)と呼ばれる異なるスパイスが複数入った煮込みパックをお肉や卵などが入った食材の鍋の中に一緒に入れて煮込みます。また西洋料理ではスパイスを使ってお肉をその中に漬けさせます。優れたシェフからすると中華・西洋料理の共通点は最も重要な香辛料として『胡椒』を使用しているという点です。調理中の厨房で、ベテランのシェフがよく「少し胡椒かけて」と声をかけますが、このまだ熱いうちに振りかけられた胡椒は表現しきれない絶妙な風味を引き出すことができ。故に胡椒が調理における香辛料の王様であると言われることは当たり前のことです。
史書に残る伝説の黒い金
古代エジプト時代から、胡椒は祭り行事の際に扱われる最も重要なスパイスでした。胡椒は独特な刺激的な香りをもたらすことから、宗教儀式において同時に調理をする際にも使用されたため、胡椒の需要は極めて高いものになっていきました。それに加えて、胡椒の重量は軽く保存に優れた特性を持っており、ユーラシア大陸を横断する貿易船団の主な取引商品となりました。西洋地域の船団員たちが猛烈な刺激的辛さをもつ「胡人」植物の種を当時の唐朝の市場に持ち込み始めた時から、『胡椒』はアジアの食文化全体に広まり始めました。
同時期のヨーロッパでも同じように、ベネチアの商人が胡椒をヨーロッパに持ち込み、宗教的な焼香の儀式や、肉の調理また保存に使用されました。当時の医師や術士たちは胡椒やナツメグは病気の治療や黒死病(ペスト)の予防に効果があるとしていました。
その刺激的な香りが宗教上や調理をする上で非常に高い利用価値をもたらし、ベネチアの商人たちによって胡椒の取引価格は金をも上回る高額な値段がつけられ、さらにヨーロッパ貴族の晩餐会では、料理に胡椒を使うことが富と地位の象徴とされていました。
一粒の胡椒が広大な土地に値する
中世紀のイギリスでは、胡椒は通貨として特別な役割を担っていました。過去のイギリスの歴史の中で、実際当時の土地の賃貸料はかなり低く、地主がわざわざ徴収するものではないとされていました。しかし、当時の契約書には地主が家賃を徴収しているか否かにかかわらず、賃借人は地主に土地の賃貸料として少なくとも一粒の胡椒を渡さなければならないと法律上定められていると書かれていました。故に[Peppercorn Ground Rent]この言葉が生まれたとされています。
香辛料としての胡椒の需要がノリに乗っていた大航海時代
胡椒の需要価格が増加するにつれて、陸上貿易業者による価格の引き上げ止まることを知らない勢いでした。そこでヨーロッパの人々は金とスパイスに溢れた伝説とされた東洋の世界を求めて出航した。ヨーロッパ諸国の王族たちは四方の領土を次々に占領していく大航海植民地時代を展開し始めました。
ヨーロッパの歴史において、「お金」、「香辛料」、「宗教」が大航海時代幕開けのきっかけとなった三大要因とされています。胡椒がもたらした富は、ルネサンス時代の始まりの契機であり、ヨーロッパの歴史上とても重要な時代となりました。胡椒が取引される貿易は《オランダ東インド会社》,《イギリス東インド会社》、《フランス東インド会社》というヨーロッパ史を知る上で重要な鍵となってくる3つの貿易会社の設立につながりました。
胡椒が独特の風味をもたらす秘密
胡椒をほんのひとつまみ入れるだけで、料理の風味が劇的に変わる主な理由は胡椒の種の中に含まれる3種類の特別な物質にあるのです。クローブや柑橘系の香りをもつテルペン(terpene)、土臭さやローストされた風味を感じさせるピラジン(pyrazine)、胡椒独特の刺激をもたらすピペリン(piperine)。これら3種類の物質は、1000分の1ミリという低濃度で人間の味覚と嗅覚に顕著な神経系反応をもたらします。特に、胡椒に含まれるテルペン類は数多くのスパイスと結合することができ、分子量が軽いため揮発性が高く、香りが素早く空気中に広がります。一方でピペリンは人の神経細胞に存在するある特殊な温度感受性チャネル(カプサイシン受容体TRPV1)と反応し、43℃以上の温度に反応する。胡椒を嗅いだり味わったりすると「温かい」温度を感じるのはそのためです。
スパイシーでスウィートな香水の秘密
香水を調合する時、調香師はトップノートが素早く安定して定着し香ることがベストとし、その後ミドルノートとベースノートは徐々に調合された様々な香りを穏やかに引き出します。ウッディーノートとフローラルノートは香水市場において定番とされる香りです。しかし、香水同士のブレンドとなると、ウッディとフローラルの香りはブレンドしていく中で、ひどく冷たい風味をもたらすことが多く、時には香りの充満が行き届いていないこともあります。経験豊富な調香師は、香水に温かみをプラスし、香りの充満をよくするために胡椒を用いるのです。有名な香水ブランドはさらに香水を穏やかで滑らかな香りにも、明るく爽快感を味わせる香りにもなるように、胡椒をベースの香りとして使用することさえあるのです。
胡椒は香水のあたたかさと充満性を高めることはできますが、香水の調合に胡椒を使用する際は、多くの注意すべきポイントがあります。調香における胡椒の使い方についてより詳しく知りたい方は、調香師許博士に是非是非ご連絡ください、香水の本質を引き出す胡椒の裏技テクニックをお教えしますよ!